都市化する世界part.2
都市化する世界part.1のつづき。今回のレポートの副題は、「人々は都市の不潔さを地方の絶望よりは好む」。下線部は訳者がstrikingだと感じたところ。
■ “The strange allure of the slums”
アフリカほど都市化の速度がはやい大陸は存在しない。なぜか?アフリカは都市化のスタートが遅かったからだ。また、地球温暖化など気候の変化が、ある土地を不毛な土地に変えているからだ。アンゴラやコンゴでは、長年の内戦が人々を都市へと追いやってきた。しかし、もう少し詳しく見る必要があるだろう。例として、ナイロビ市内にあるキベラというスラムを取り上げたい。
ナイロビの人口は1960年には約25万人だったが、今日では300万人を超す。ナイロビ市内にあるキベラは、アフリカ最大の、最も密度が高く、一番貧しいスラム街だ。キベラはナイロビ市内の中心部に位置し、また国連機関が近くにある。したがってキベラは、政府であれ、NGOであれ、映画会社であれ、外部世界からの注目(attention)を失うことがないのだ1 。
もちろん、キベラは、アフリカの他のスラム街と同様な特徴を持っている。人口密度の高さ。塵。ぬかるみ。不潔さ。危険に満ちていること。ゴミの散乱(特にプラスチック)。特筆すべきは、なんと言っても臭いである 2。
しかし、一番驚くべきなのは、住民たちがたしかに、彼らの状況に(それなりに)満足していることだ。もちろん彼らは上機嫌ではない。しかし、多くの人々は、日々暮らしていくことに忙しい。教会も学校もたくさんある。子供たちはスラム街を横切る鉄道のレールの上で泥まみれになって遊んでいる。路上でストールを売っている人もいる。
あるNGOによれば、キベラはインフォーマルな居住地なのだという。つまり、オフィシャルには存在しないことになっている。政府は、基本的なサービスや、学校や、病院や、水や、トイレを提供していない。しかし、その土地は政府のものだから、何かあれば、住民は役所まで出向いて役人の許可を得なければならない。
ではなぜ政府はキベラにブルドーザーをかけてぶっ潰してしまわないのだろうか?それは、多くの人がたくさんのお金をスラム街から得ており、スラム街が政府の提供しないサービスを提供しており、スラム街の住人からのワイロが政府を潤わせているからだ。さらに、スラム街は、ナイロビが都市として成立するために必要な安価な労働力を提供しているからだ。現状が、当局の利害関心とぴたりと一致しているのだ。
では、スラム街に住む人々の視点から見ればどうだろう。彼らにとっても、奇妙なことに、スラム街はありがたい存在なのだ。村に帰ることは考えていないの?と尋ねられた女性はこう答えた。「ううん、そうね。でも、故郷に帰っていったい何をするというの?」食料で満たされる必要がある口を抱えた人々。でも地方には仕事の口がない。だから地方の貧しい人々は都市へ向かう。少なくとも、都市には、雇用の希望が存在しているのだ。
人々をキベラに結びつけているのは希望(hope)だ。汚い場所かも知れない。でも、そこが彼らの居場所だ。誰もが職にありつけるチャンスを持っていて、歩いて仕事に行くことができる。仕事を探したり職場へ向かうために、時間やお金のかかる通勤をしなくて良いというだけで大きなベネフィットだ。