意識とは(言語に想いを込めることのもどかしさの根源とは)

2007/7/4, 2:11 by Gen

 前回の「心とは」のつづき。同じく、『心と認知の情報学』からの抜き出しメモ。今回の方が圧倒的に抜群におもしろいですよ。「意識とはコミュニケーション器官である」というのが石川さんの強い仮説。

■意識の3つの性質

1.部分性。意識は心的機能のほんの一部しか感知できない。生理的反応を感知・判断し、感情を形成する過程は無意識で行われ、その結果が部分的に意識されている(われわれが意識していることとは、すでに無意識のうちに処理が済んでいることを、あたかも映画をみるかのように眺めた結果に過ぎない)。無意識部分もかなり知的で高度な機能を実現している。記憶についての無意識の働きを示す現象がプライミング。われわれの生存のためには無意識の方が重要。

2.統一性。知らない部分が多いにもかかわらず、意識には、全体としてまとまりのある体裁を取ろうとする機能がある。合理的な物語を紡ぎ出す作家のように。人から行動の理由を問われたときには、かならず妥当な理由が「生成」される。自らの行為とされるものについては、かならずその理由を言えねばならないという、切実な意識が働く。またはフロイト的な「合理化」など。記憶もまた、物語によって変容されていく。記憶の変更過程は、われわれの信念に合致した形へと、数ヶ月や数年かけて無意識的に進行している。結果的にそれは、意識的な行動レベルでの統一性、すなわち整合的な世界観(物語)を支えている。

3.主体性。意識によってなされる行動は、一人称的に、「わたしの」ものとして自覚される。意識は、あたかも「わたし」が主人公となっている仮想の物語を作り出すかのよう。われわれが意識していることとは、すでに無意識のうちに処理が済んでいることを、あたかも映画を見るかのように眺めた結果に過ぎない、という可能性。意識する対象はどれも可観測であっても、可制御ではない。とはいえ、意識は行動を最終的に選択するところ、あるいは目的の設定という面で一定の役割を担っているのかもしれない(ハーバマス、2004の議論)。

*まとめると、意識は、身体などの所有物に対して本来部分的な介入しかできないにもかかわらず、それら全般を統一的にコントロールする主体を感知する、となる。

■意識の進化的意義

*前回の記事に示したように、グレゴリー型生物を特徴づけるのは異質な個体同士のコミュニケーション。その中でうまく振る舞うには、協力者の探知が必要であり、その探知には「他者を知る」ことと、「自分を知らせる」ことが重要になる。

■他者を知る

 サルも人間も他者の心を読む天性の心理学者である((c)ニコラス・ハンフリー)。バロン=コーエン(1995;1997)の認知モジュール理論。下図参照。

*「意図検出モジュール」は、意図を帰属させる能力を発揮する。運動する物体に人間と同様な、願望・欲求・意図を積極的に帰属させる能力。この傾向は、万物に心(願望や意図)を見るアニミズムの基礎となる。

*「視線検知」モジュールは、他者が見つめる方向を検出する能力を発揮する。われわれ人間は、とくに目に対して敏感だ1 。また、他者の視線を、他者の願望や意図に結びつける認知がみられる。人間は、顔の前面に目が並んでいて相手の視線方向の検知がしやすく、コミュニケーション上有利。目は本来、感覚情報の入力器官であったのだが、願望や意図の表示器官となったのは興味深い。

*「注意共有」モジュールは、「意図検出」と「視線検知」モジュールの出力を利用して他者の意図を知るもので、「対象に注目する他者」を「自分」が注目するという三項関係(注目対象を他者と自分で共有する関係)を形成する能力を生み出す。

*「心の理論」モジュールは、「注意共有」モジュールの出力を利用して、他者に、現実とも自分の信念とも異なる信念を帰属させる。つまり、「他者に独特の」内的世界があると想定する能力を実現する。他者の信念理解モジュール。幼児やチンパンジーは、自分の内的信念と他者の内的信念の相違を想定するのが難しいとみられる。

■自分を知らせる

*他者に自分の信念や意図がわかりすぎると、かえって個体にとっては不利になることも多い(→ゲーム理論)。

*感情の果たす役割は大きい。感情は見せかけるのが難しく、意識でも制御しにくいので、他者に信用されやすい。だから、コミュニケーションにおいて感情の占める役割は大きい。感情は(その場限りでは)非合理的に見えるかもしれないが、長期的に見れば、その場限りの自己利益を超えて、行動を合理的に方向付けている可能性がある。(憤りの感情は、短期的に見れば戦いを誘発して損失を招くが、長期的には(あるいは社会全体としては)裏切り者を排斥して協力者同士の信頼関係を成立させやすくなる。)

*ゲーム状況で有利にふるまうには、他者がどんな信念と意図を持っているのか、自分はその他者にどのように思われているのか、さらに自分がその他者について考えていることがその他者に伝わっているのか、などを知る必要がある。

ここで「他者の他者」としての自己という、社会的次元の自己(あるいは自己像)が生まれてくる。これは、それまでの「行動の主体」としての自己に比べて統一性・一貫性への要請が格段に高い。一貫した特性が失われた個体(ex.統合失調症)であると、集団内で役割を与えるのも難しいし、安心した協力相手ともなりえないから。

■コミュニケーション器官としての意識

*自己と他者の結節点(ノード)において、インターフェースをとる役割をするのが意識。社会的な要請にしたがって、他者から認識されやすい統一的な自己像を演じるのだ2 。それはかならずしも本来の自己を反映していなくとも良い。むしろ隠されていた方が交渉ゲームでは有利な面もある。そもそも意識は自己の多くの部分を知り得ない、部分性を持つものだった。意識は本来の自己に気づいておらず、意識にとっては自分自身が他者でもある。

*他者の行動から他者の心的内容を推測する論理が、自分の行動から自分の心的内容を推測するのにしばしば使われている事実は3 、自己認知がすでにあって他者認知が発生したと言うよりも、両者は同様の過程で少なくとも同時期に発生したことを示唆する。さらに、進化の過程で、自己知覚に先んじて他者知覚が存在したのではないかとも推測できる

*進化の過程では、限定した情報から無理矢理一貫性を持った物語を生成する意識が、社会的な協力活動に必要とされた。一方で行動主体としての自覚、唯一無地の自己知覚は、協力による利益の中にみずからの貢献を埋没させずに、自己利益を求める競争を呼び起こす効果がある。

*意識とは、こうした集団活動と個人行動に必要な諸要素をバランス良く達成するための、巧みな戦略として利用され、われわれのコミュニケーションが実現されている。

*無意識レベルの情報の入出力が一秒当たり数兆ビット以上の規模であるのに、意識レベルの情報の入出力は一秒当たり十数ビットに満たない((c)ノーレットランダーシュ)。つまり、無意識から意識へ至る処理過程で、大量のs情報が捨てられて限定された情報のみが意識に上がる。この情報の削減と限定化は、おもに言語によるコミュニケーションのために必要。言語は一秒間辺りの伝送情報量が、やはり十数ビットに満たないので、情報を効率的に表現し、その伝送チャネルに載せねばならない。言語に想いを込める上での「もどかしさ」の根源はここにある。言語と意識が共進化して、少ない情報で何とか内的世界と外的世界のインターフェースをとらねばらならないと、ただいに同類で相補的な性質をもったと考えられる。

すなわち、異質な個体同士の協力行動が進化論的に要請され、協力と競争というジレンマの中で、言語を中心としたコミュニケーションが成立していった。その過程で、意識が中核的な役割を果たすようになった

*上図は意識のモデル。意識は、内的世界と外的世界を媒介し、外的世界に対しては調和的な自己像を演出してコミュニティを形成する一方、内的世界に対しては認知モジュール群を調整する物語を表出して安心を形成している

*コミュニケーションの場では、自己の利益と社会的利益をつねに調整して適切に振る舞う必要がある。そこでは他者から見た自己像が重要になる。意識は社会的自己を演じる、コミュニケーションのための器官である。自己のありさまの多くの部分が意識から隠されていることこそが、意識を主体にした整合的な物語が一貫して制作できる基本的条件となっている。

#おもしろい!おもしろすぎて、どこかに弱点がありそうだ。近日中に要検討。物語論的にもかなり興味深い。もうひとつ考察エントリでも書いてみよう。


  1. むかし東大後期の入試で書いた、まなざしに関する小論文を思い出すなぁ [back]
  2. 「俺のキャラ的には」みたく。 [back]
  3. たとえば「なんであの人とセックスしたのだろう。わたし好きなのかな、あの人のこと、といった具合に [back]
Tags 科学/認知/進化/環境/身体 | | 3,141 Views | add to hatena hatena.comment 0 user add to del.icio.us 0 user add to livedoor.clip 0 user |  http://blog.genxx.com/wp-trackback.php?p=207
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