ある性のかたち

2007/6/30, 16:31 by Gen

 この記事を書くに至ったきっかけはyasuchanのはてなブックマークを通じて知った「AV女優に質問!本当はAV出演は苦痛ですか?」というサイト。2chにあるスレのまとめサイトのようだが、そこでは、約8割がた、「苦痛である」「お金のためにやっている」とのコメントが寄せられているようだ。大半が嫌々やっている、と聞いてあなたは何を想うだろう。「やっぱりな」と感じるのかもしれない。

 上記サイトのデータを社会学的に分析したいわけでも、他の統計を持ってきて反論したいわけでもない。これから書きたいのは、高校時代からの知人である女性の、ある性のかたち、その生きとし生けるありさまだ。セックスが好きという彼女は、どのような人生を歩んでいるのか。

broken and still seeking

 彼女は底抜けにセックスが好きだった。もちろん、女性の「セックスが好き」には色々な形がある。1.好きな人とのセックスは好きな場合。2.(恋愛関係を抜きにして)セックス自体が好きな場合。さらに、a.自分がセックスを好きだと思われることが好きな場合。b.自分がセックスを好きだと思われることがイヤな場合。

 つまり「セックスが好き」は、理念型として、4通り考えられる。
1-a. 好きな人とのセックスは好き、まわりにそう思われても平気。
1-b. 好きな人とのセックスは好き、でもまわりにそう思われるのはイヤ。
2-a. セックス自体が好き、まわりにそう思われても平気。
2-b. セックス自体が好き、でもまわりにそう思われるのはイヤ。

 社会が許容する性のかたちは、1-b>1-a>2-b>2-aの順となる。少なくとも若者のあいだでは、1-aまで許容されている。彼氏が好き、彼氏とのセックスも好き、と公言されて特に違和感を抱くこともないだろう。恋愛関係を抜きにしてセックス自体が好きな女性(2-b,2-a)には「ヤリマン」「させ子」といったレッテルが(時には)貼られるが、そのレッテルを嫌がるのが2-b、そのレッテルの上を軽やかに泳ぐのが2-aだ。(ちなみに、男性の欲望の対象に一番なりやすいのが2-bのタイプだ。恥じらうけれども、内側にとてつもないエロを秘めている、といった具合に)

 彼女は「底抜けに」セックスが好きだった。そう、彼女は2-a(セックス自体が好き、まわりにそう思われても平気)タイプだった。「底抜けに」という言葉にはもうひとつの意味が込められている。既存の社会規範に反抗しているといった気負いや重苦しさなどまったくなかったという意味だ。彼女がセックスを語るときには、野球少年がイチローについて語るときのように、夢や幸せが溢れ、目が輝いた。ごく自然なことだ。「野球少年がイチローを語るように、セックスを語る女性」に違和感を覚えるとしたら、それはあなたがセックスを「隠されるべき/女性が公に語ってはならない/野球よりも下であるべき」ものと考えているからだ。

 彼女は浮気性だったわけじゃない。好きな彼氏がいる場合には、彼氏とのセックスに没頭し、その世界を追求した。一般的に誤解されているが、セックス自体を好きだからといって浮気性ということにはならない。「ヤリマン」と浮気は原理的には関係がない。「お互い浮気をしない」という契約を結ぶのが「付き合う」行為だとすれば、問題とされるべきはルールを守るかどうかという点だ。セックス自体が好きで、誰とも付き合っていないときには様々な人とセックスをして自分の世界を拡げる。でも、契約を結んだらルールは守る。彼氏を傷つけたくないならば、浮気などしない。それだけの話だ。どこまでも自然体だ。

 彼女が自己を実現できるあり方は――野球好きにとってそれが野球であるように――セックスだった。だから、彼女はセックスを職業にして生きていくかどうか真剣に悩んだ。彼女はなぜ悩んだのか。それは、世間が「職業としてのセックス」に否定的な見方を(いまだに)持っているからだ。親の顔も浮かんだことだろう。かつて(そして今でも)同性愛者がカミングアウトする際に悩むように、彼女も<自己実現の生き方/世間の規範的圧力>のはざまで揺れたのだ。

 「ねぇ、わたしAV女優になろうと思うんだけど、どう思う?」と彼女に何度か問いかけられた。静かな口調で返事をした記憶がある。自分が一番好きなことを通じて人に夢を与えお金を稼ごうとする姿勢に共感を覚えること。社会的な評価は高くない職業だから、転職は難しくなるかもしれないこと。親や兄弟をある種のリスクに晒すことになるかもしれないこと。結婚が難しくなるかもしれないこと、等々。彼女が見落としているかもしれないメリット・デメリットを黙々と説明した。

 ここで話は現在に飛ぶ。彼女はいまAV監督の彼氏と付き合っている。彼のアシスタント兼アドバイザーとして、撮影現場によく顔を出す。そして、彼女自身は、普通の上場企業に就職している。彼女はBlogをもっていて、そこで表現活動を行っている。つまり自分の裸体や性をより美しく、より魅惑的に表現しようとしている。世間一般的には「アダルトブログ」とラベリングされるのかもしれない。

 彼女にAV業界について尋ねてみたことが何度かある(そのうちフィールドワークさせてもらうかもしれない)。「セックス好きが昂じて業界に入った人と、お金のために嫌々やっている人の割合、まわりではどれくらい?」と聞いてみた。生ビールを美味しそうに飲みながら彼女は言う、「あたしのまわりでは五分五分かな」。「でもねぇ、仕事だからね。仕事は厳しいからね。いくらセックス好きでも、仕事の厳しさから仕事が嫌いになっちゃう子はいるよね。どんな仕事でもそうだと思うけど」。そう、AV女優だって仕事だ。いくら好きなこととはいえ、仕事の厳しさからイヤになってしまう女性も多いのだという。野球が好きでプロ野球選手になったものの、練習のあまりの厳しさから野球自体が嫌いになってしまう選手がいるように。また、仕事を嫌にさせる、業界内部のドロドロした人間関係などはどの仕事にも付きものだ。

 AV女優は本番中に感じているか、って?そりゃ感じるのは難しいでしょう。お金のために仕事を嫌々やっている人は、もちろん感じない。そうではなく、セックス好きが昂じて業界に身を置いている人でも、感じることは難しい。それは彼女が、仕事であるかぎり、プロとしての身体規律を守らなければならないからだ。何より彼女は演技を職業とした「女優」なのだから。たとえば、表情の作り方、髪の配置、仕草、セリフなどを意識的にコントロールしなければならない。そんな状況では、自由に感じるどころではない。

 さて。結局、彼女はAV女優にならなかったわけだ。ロックミュージックが大好きな女性がその道で稼ぎ食べていく厳しさを前にして、一般企業に就職し、ミュージシャンの彼氏を作り、自分の趣味として演奏活動を行うように、彼女も一般企業に就職し、AV監督の彼氏を作り、Blogで表現活動を行っている。

 この人生の一片を示す短い文章から、わたしは何が言いたかったのだろう。もちろん、ジェンダー論的なポルノ産業批判は傾聴に値する。ポルノ産業によって、傷つけられ、自らの精神と身体を毀損されている女性も数多くいるからだ(冒頭でリンクしたサイトが示すように;そして発展途上国で多くの女性が「自己決定権を奪われた形で」性を搾取されている事態が示すように)。しかし、この断章の主人公であった彼女のような生きとし生けるありかたもまた、同様に存在している。そのような生き方をも想像できる、包容力ある社会であって欲しい。

 (専業主婦という生き方であれ、AV女優という職業であれ)女性の性を「搾取」する構造を批判する言説は力を持ちやすい。歴史的にそのような批判には多くの意義があったし、またそのような批判は正義感と結びつきやすいからだ。でも、その構造を「搾取」と捉えるのではなく、そこを自らが生きる場とし、そこでしか自己実現のできない女性もまた存在している。正義感からポルノ産業(専業主婦)を批判すればするほど、そしてポルノ産業(専業主婦)の社会的価値を悪化させればさせるほど、自らの生きる範囲を狭めて行かざるを得なくなる女性も同様に存在している。

 どちらが良い、悪いの話ではない。問題を掘り下げれば掘り下げるほど、両義的な事態が顔を出す。つねに両義性を想像できる社会であって欲しい、そんな(無茶な)希望を述べてみただけだ。それにしても、自己決定によってセックスを職業として選択することは正しくないと、誰がどのような根拠に基づいていえるのだろう。売春はなぜ法律で禁止されているのだろう1 。セックスを野球と同等に扱わないとするならば、それはなぜ可能なのだろう。想像がつかない。とはいえ、自分の大好きな恋人が、「わたしAV女優になる」と言い出したら、自分はどう対応するのだろう。本当に止めないのだろうか。もし止めるとすれば、なぜ止めることが許されるのだろう。その根拠は何だろう。自分以外の男とセックスをすることは「浮気」にあたると感じるからだろうか。自分がAV男優だったら何を想うだろう。彼女がレズ系のAVに出演すると言ったならばどう考えるだろう。

 この問いを深めていくと、「恋愛とはなにか」「セクシュアリティとはなにか」という問いにふたたび行き着く。みんなちがってみんな変、そういう社会で唯一の答えはないだろう。道徳を密輸入して頭ごなしにあるべき形を決めつけるのではなく、死ぬまで問い続けること。問い続けることを通じて、いろいろなかたちを包容し抱擁できる社会を築いていくこと。それが人間に許された権利、あるいは託された義務なのだろう。そしてこんな堂々巡りをしていると、「だからモテないんだよ!ナンパでもしてきな!」と主人公の彼女は笑い出すのだろう。


  1. (目的)
    第1条 この法律は、売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ、売春を助長する行為等を処罰するとともに、性行又は環境に照して売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずることによつて、売春の防止を図ることを目的とする。
    (定義)
    第2条 この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。
     
    →「尊厳」?「性道徳」??「社会の善良の風俗」???
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2 Responses

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