文系的株入門part.4
こんばんは。文系的株入門part.1、part.2、part.3の続きです。そういえば、part.1で書いた、「日本株で勝負するよりは世界に目を向けろ」的論調に疑問を持たれた方は、こちらのコメント欄をご参照下さい。早速ですが続きに入っていきます。
- ミクロ・ファンダメンタルズ(企業の実体価値)
- その企業が今後いくら稼ぎそうか
- その企業がどれだけ資産を持っているか
- マクロ・ファンダメンタルズ(国内外の景気見通し)
- 景気が上向きか下向きか
- 金利が上がるのか下がるのか
- 為替レート
- 人間の心理のクセ(テクニカル)
- 欲望
- 恐怖
- バイアス
- 需給
- 個別株の需給
- マーケットに流入するお金(流動性)の需給
- 人気
- 材料
- 知名度
5.人気について
冒頭はとある本からの長い引用で始めます。
<引用開始>「株式公開会社制度は、国民の大切なリスク資本の活用をプロの経営者に委ねることを通じて、リスクを全員で負担しつつプラスサムの経済的価値の創出を推進することを目的としている。それが所期の目的を達成できるかどうかは、株主の利益に奉仕する経営者が率いる企業と、そのパフォーマンスを適切にモニターし、株価によって評価する投資家という、2つのグループの協働作業に依存している。投資家が企業の業績を適切に評価して正しく株価水準を設定できなければ、企業や産業に資源や資本がふさわしくない条件で再配分され、ひいては国民全体の大きな経済的損失につながっていくだろう。そういう意味で株式市場は、価値創造の主たる担い手である企業のパフォーマンスに最終的な評価を下す、資本主義経済の「最高裁判所」と考えることができる。
そのためには、投資家全員が企業を評価するための共通の憲法を持ち、よく訓練された独立で中立的な裁判官が多数存在し、純投資の立場から企業の業績動向に目を配り、株価という形で公正な判定を下す仕組みが不可欠なのである。
先進国の歴史を見ると、伝統的に株価に関する2つの立場がせめぎ合ってきた。1つの立場は、株式も債券と同様に株主に帰属する期待キャッシュフローがあり、債券ほど確実ではないし、また満期がないため不確実性は高いが、やはり何か適正な推定価値(ファンダメンタル価値)があるとする学派である。この学派はファンダメンタル・リターンを重視し、無数の投資家が企業の実体を分析し、常識を働かせて予測し、合理的に推定した価値の平均値が株価に反映されると考える。企業に適切な情報開示(ディスクロージャー)を義務づけ、全員が賢明に判断する努力をすれば、企業の真の価値に限りなく迫れるはずだと考えるのである。このような立場から株価を考えるアプローチをファンダメンタル投資と呼び、それに必要な技術は証券分析である。
もう一派は、株価はもっぱら市場参加者のその時々の群集心理を反映した「砂上の楼閣」のようなものだと考えて、評価リターンを重視する。その知的リーダーはかのケインズである。このため、こうした株価観は別名「ケインズの美人投票」とも呼ばれる。ケインズによれば、株式投資にははっきりとしたよりどころがあるわけではなく、いわば不特定多数の参加者が、不特定多数のコンセンサスが何処にあるかを当てて賞金を得ようとする、「3次元、4次元、5次元」の複雑な美人投票だという。そして市場では「買い」が「買い」を呼び、「売り」が「売り」を呼ぶ傾向が強く、絶えず大中小のバブルが生まれては膨らみ、弾けていると認識する。この学派は、株式にファンダメンタル価値があることを否定するわけではないが、どの投資家も常にそれを推定しながら市場に参加していると考えるのは、非現実的だというのである。この学派はテクニカル学派とも呼ばれ、それにふさわしい投資技法はチャート分析またはテクニカル分析と呼ばれるものである。
そういう世界では、絶えずおめでたい人が、新たにゲームに加わってくることを想定している。そして同じものを、あなたが払ったよりも高い値段で、誰かが買い取ってくれることになる。どんな値段が付けられても、その値段以上で買う人がいる限り、このゲームは続く。そこには何の理屈もなく、あるのはただ集団心理のみである。賢明な投資家がしなくてはならないことはただ1つ、ゲームのはじめのほうで参加し、機先を制することだ。この理論は、もう少し残酷な言い方をすれば、「より馬鹿理論」とでも呼ぶことができよう。たとえ本質価値の3倍の値を付けても、もし誰かあなたよりも愚かな人を見つけて5倍で売りつけられるとすれば、何の問題もない。<引用終了;『ビジネスゼミナール証券投資入門』より>
さて。part.2で書いたこととオーバーラップするが、このように、株価に影響を与える主要なファクターは、1.ファンダメンタル、2.テクニカル(人間の心理が織りなすあれこれ)に大別できる。企業にはファンダメンタル価値がある、が、それが推定されるのは「美人投票」を通じてなのだ。あなたは沢尻エリカが間違いなく最強に可愛いと思っている。が、その気持ちを抑え、「凡庸な大衆は長澤まさみをより好むだろう…」とメタ読みしなければならない場合もあるのだ。たとえコーラが一本500円だとしても、誰かが800円でそれを買い取ってくれるアテがあるならば、あなたはコーラを買う価値がある。
1.材料について。上場企業が、PR(Public Relations:一般向け広報)と同時に、IR(Investror Relations:投資家向け広報)も重視するのが最近のトレンドだ。IRとは、企業が株主や投資家に対し、投資判断に必要な情報を適時、公平、継続して提供して行く活動全般を指すのだが、これが「材料」として株価に大きな影響を与える。(この情報は適時開示情報として、こちらで確認することができる)
材料(IR)には色々な種類がある。企業の人事異動に関するもの、新しく始めたサービスに関するもの、新しく開発した技術に関するもの、不祥事のおわび、将来の業績見通しの修正など。
IRが発表された場合、それが将来の企業収益に対して及ぼすインパクトを想像する必要がある。また、あなたが想像するだけではなく、他の人々がその材料をどう捉えるかをも想像する必要がある(=美人投票)。
株価に対してポジティブに働くニュースが出ると、一時的に人気が沸騰することがある。たとえばタカラバイオという企業があるのだが、この会社は以前「エイズ治療薬につながる発見をした」と発表した。たちどころに株価はストップ高となり、その後も高騰した。しかしIRを良く読めばわかるように、製品化への道のりは遠く、株価はほどなく下落をはじめた。あるいは、北朝鮮がミサイルを発射した際には、石川島播磨工業など、軍需関連株が値上がりした(皇室の子供が誕生した際には子供衣料品関連株が!)。
材料が出ると一時的に株価は上昇するが、得てして、高い株価は長続きしない。大事なのは、その材料が、本当に企業のファンダメンタルズの中長期的向上に役立つかどうかを見極めることだ。いくら優れた技術を開発しても、そしていくらその技術が夢を見させてくれようとも、本当にビジネスモデルとして企業収益に貢献しうる形で商品化できるのかどうかを見極めることが必要だ。エイズ治療薬が実際に製品化されるまでにはあまりに長い期間かかるだろうし、ミサイルが発射されたからといって直ちに戦争になるわけでもない。皇室の子供が生まれたからと行ってベビーブームが生まれるとは考えにくい。
株価に対してネガティブに働くニュースには特に注意する必要がある。成長株が一度でも業績見通しの下方修正を発表すると、その企業の株価は今後(中長期的に)大きく下落する可能性が高い。また、トップの突然の人事交代は、(市井の人々が想像する以上に)企業内部が混乱している隠された内部事情を示唆しているのかもしれない。
なお、テーマ・インベスティングについて理解を深めておくとよい(参考)。時代の流れや流行を少し先回りして捉えるのがテーマ・インベスティングだ。あるテーマが盛り上がると、ファンダメンタル価値を大きく超えて株価が上昇する。そこに大きく稼ぐチャンスがある。相場では、柱となるテーマが周期的に現れては消える。それを(自分の生活世界の経験から)想像することは可能なのだ。ITというテーマは廃れてしまったが、次は何だろう。環境技術だろうか。ラグジュアリー・ブランドだろうか(中国やインドなどエマージング諸国では、これまでほとんど手つかずだった、高級衣料品・高級ブランド品などの贅沢品マーケットが大きく伸び始めている)。ユビキタス・コンピューティングだろうか。(Economist誌の年4回の特集”technological quaterly”は将来の動向を占う上で極めてオススメ)
2.知名度について。
日本のマーケットには上場企業が何社存在しているだろうか。そのうちあなたは何社を知っているだろうか。ある企業のマーケットでの知名度が上昇すればするほど、(より多くの人間が各々の投資判断に基づき株を売買するため、)その株価は効率的に(歪みの少ない形で)値付けられやすくなる。逆に言えば、知名度が低い企業の株価は、歪んだ(ファンダメンタル価値と株価との乖離が大きい)形で評価されやすい。とてつもない技術力を持っているのに・素晴らしいビジネスモデルを持っているのに市場が十分に評価していない(=株価があまり上昇していない)企業。それはいわば宝石の原石のようなものだ。そのような企業を発見できるだろうか。(詳しくは『ジムクレーマーの株式投資大作戦』にて)
>>>文系的株入門part.5へつづく