文系的株入門part.3

2007/6/18, 21:33 by Gen

 文系的株入門part.1part.2の続きです。まず、前回の記事で、1.ミクロ・ファンダメンタルズ、2.マクロ・ファンダメンタルズ、3.人間の心理のクセについて説明しましたが、今回は、4.需給、について説明を行います。5.人気については次回に。

money#1

 その前に、今回と次回の説明を理解するために必要な前提知識をいくつか説明します。まず、株式投資でいかにお金を稼ぐかについて。株取引でお金を得る方法は3つある。1.株を買い購入時の値段よりも高く売る。2.株を空売りし、購入時の値段よりも安く買い戻す。3.株を買ったままホールドし、企業が毎年数回支払う配当や優待から収入を得る

 1.はいわゆる「普通の」株取引。安く買って高く売れば、差額があなたの稼ぎですよ、というもの。株価が値上がりすれば儲かる。2.の「空売り」は一般的になじみが薄いかもしれない。空売りを行った場合、株価が下落すれば儲かる。たとえば、mixi株が1株300万円の時に、証券会社から1株借り、それをマーケットで売る。すると300万円が手に入り、証券会社に対してmixi株を1株返さなければならない義務が残る。数ヶ月後、mixi株が1株100万円になっているとしよう。その時あなたはマーケットでmixi株を100万円にて1株買い、証券会社に返却すればよい。300万-100万の差額、200万円があなたの稼ぎとなる。

 3.配当・優待はわかりやすいと思う。ある企業が収益を1億上げたとしよう。そこから銀行への負債を2000万返し、社員の給料・店舗代・原材料費など必要経費を5000万払い、残りの3000万は自由に使えるお金になったとしよう。企業は株主のものなので、企業はその3000万円を株主に還元しなければならない。そこで、配当や優待という形で分配が行われる。もちろん、企業は、その3000万円を将来に向けての設備投資などに使っても良い。将来に向けた投資によって次年により多くの収益を上げることができれば、株の価値が高まり株価が上昇し、株主はより多くの利益を得ることができるからだ。したがって、配当金をたくさん出す企業がかならずしも良い企業とは限らない。概して、成長中の企業は(未来に向けた投資の方が大事だから)配当金を出さないのに対し、成熟した企業は配当金を多く出す傾向がある。

 株取引の方法は2種類ある。1.現物取引、2.信用取引。現物取引とは、自分の現金で株を買う取引のこと。信用取引とは、証券会社から借金して株を売り買いする取引のこと。さきほど説明した「空売り」は、信用取引口座を開かなければ行うことができない(株を「借りる」のだから)。信用取引ではレバレッジを効かせて取引を行うことができる。つまり、自己資金が100万円しかなくても、300万円相当の取引を行うことができる。リターンは3倍になるかも知れない、が、リスクも3倍だ(借金を背負う可能性すらある。現物取引しか行わない場合、手持ちの資金がゼロになることはあるかも知れないが、借金を背負う可能性は無い)。

 信用取引口座の開設は比較的たやすく、危険なことに、学生でも簡単に口座を持つことができる。現物取引口座しか持たない場合、比較的リスクは少ないのだが、空売りができないというデメリットがある。つまり、株価が下がるときに稼ぐことができない。初心者が信用取引を行うのは危険だしオススメできない。だが、本当は、株価が上昇しても下落しても稼ぐことができる、というのが理想のスタイルだ。なお、信用取引の場合、一般的に「購入時(空売り時)の6ヶ月後がお金の返却期限」というルールがある。ジョゼフ・ケネディが空売りで一財を成したのは有名な話だ。

 さて、前回の説明のつづきです。日本株の株価に影響を与えている(と筆者が推察した)ファクターの見出しを再掲し、説明に入っていきます。

  • 実際の株価を決める5つの要素
    1. ミクロ・ファンダメンタルズ(企業の実体価値)
      1. その企業が今後いくら稼ぎそうか
      2. その企業がどれだけ資産を持っているか
    2. マクロ・ファンダメンタルズ(国内外の景気見通し)
      1. 景気が上向きか下向きか
      2. 金利が上がるのか下がるのか
      3. 為替レート
    3. 人間の心理のクセ(テクニカル)
      1. 欲望
      2. 恐怖
      3. バイアス
    4. 需給
      1. 個別株の需給
      2. マーケットに流入するお金(流動性)の需給
    5. 人気
      1. 材料
      2. 知名度

     4-1.個別株の需給について。株もひとつの商品なので、他の商品と同様、需要と供給が存在する。ある企業(たとえばトヨタ)の株を買いたい人がたくさんいれば、その株価は上昇するだろう。逆に、株を売りたい人がたくさんいれば、その株価は下落するだろう。株の需給は2種類ある。a.実需、b.仮需だ(わかりやすい説明はこちら)。たとえば株式持ち合いでトヨタがデンソーの株を買ったとしよう。これは実需だ。トヨタは現物株を買い、長期保有するだろうから。他方、あるデイトレーダーが朝9時に信用取引でデンソー株を買ったとしよう。これは当日中に売りに出される可能性が高い。つまり潜在的な売り圧力を秘めている。デイトレーダーのデンソー株に対する需要は、仮のもの(仮需)だから。

     実需が長期のトレンドを形成する。仮需が短期のトレンドを形成する。ある株の人気が出て、短期的な投機目的で資金がわっと押し寄せると、株価は大きく上昇する(仮需)。ところが、短期的な投機資金は近いうちに逃げていくだろう。すなわち、仮需が大きい場合、近いうちに株価は下落すると予想できる(潜在的に大きな売り圧力を秘めているから)。そして長期的には実需に応じた価格に落ち着く。つまり、短期的には上下に大きく波を描きながらも、長期的にはファンダメンタルズ(企業の収益と資産)に応じた価格に落ち着いていく(と理論的には考えられる)。

     ある株を短期投資的に買う場合、現在の株価を構成している実需がどれくらいで、仮需がどれくらいかを見分ける必要がある。もちろん、正確に見分けることは不可能だ(知り得ない)。しかし、ある銘柄が値上がりした場合に、その値上がりが実需買いによるものなのか仮需買いによるものなのかを見分けようと努力することは必要だ。つまり、「誰が買ったから値上がりしたのか」つねに考えながら意志決定する必要がある。個人投資家が現物買いしたのか、あるいは信用取引で買ったのか(信用取引の返済期限は6ヶ月だとさきほど説明した。信用取引は典型的な仮需であり、誰かの信用買いは将来の返済売り需要を、信用売りは将来の返済買い需要を秘めている)。年金ファンドの機関投資家が買ったのか。ヘッジファンドが短期投機目的で買ったのか。スティールパートナーズがM&A狙いで買ったのか。

     「信用買い残」「信用売り残」という指標はひとつの判断材料となる。以後の説明は長くなるので、ググって欲しいのだが、簡単に説明すれば、信用買い残高が多ければ多いほど将来株が売られる(=安くなる)可能性が高く、信用売り残高が多ければ多いほど将来株が買われる可能性が高いといえる。信用買い残・信用売り残は証券会社のサイトを通じて毎日確認することができる。

     このように、株の世界には、二つの利害プレイヤーが存在している。株価が上昇すれば儲かる人々(買い方)と、株価が下落すれば儲かる人々(売り方)だ。両勢力のせめぎ合いとして株価の短期的な値動きを把握する必要がある。信用買い残が多い場合、(潜在的売り圧力が強いから)売り方は株価を安くしようと仕掛けてくるだろう。信用売り残が多い場合、(潜在的買い圧力が強いから)買い方は株価を上げようと仕掛けるだろう(これを「踏み上げ」という)。もちろん、株価が短期的に激しく上下動したとしても、長期的には企業のファンダメンタルズに応じた価格に収斂していく可能性が高い。

    【ポイント】株の個別銘柄にも需給関係が存在する。実需と仮需を見分ける心構えを持ち、売買の意志決定をする必要がある。買い方と売り方が織りなすバトルに注意を。信用買い残・信用売り残はひとつの目安となる。「誰が何のために株を買ったのか」、値動きの背後にある思惑や心理をつねに考える。

    【深めるには】こればかりは株取引を行いながら、感覚を鋭敏にしていくほかない。解説サイトを参考にしたり、J_coffeeさんのサイトで株取引の歴史的な逸話を学んだり、優秀な投資家の自伝を読むのも良いだろう。

     4-2.マーケットに流入するお金(流動性)の需給について。さきほどは個別株の需給について説明したが、需給をマーケットに流入するお金全体のレベルで考えることもできる。すなわち、世界的に金が余っていれば、株価は上昇する。世界的に金が不足していれば、株価は下落する。現在、世界的に流動性バブルが生じていると言われる

     <原油価格が大きく上昇→中東やロシアはお金をがっぽり儲けた→現金は利益を生まないので、彼らは何かしらのリスク資産に投資する→株の買い需要が世界的に高まる→世界的に株価が上昇>というわけだ。あるいは、<日銀の未曾有の低金利→「低い金利でお金を借りて株に投資すれば大きなリターンを得られそうだ」と考えたファンドがじゃんじゃんお金を借りて世界中の株に投資→株の買い需要が世界的に高まる→世界的に株価が上昇>というわけだ。

     現在の世界的な株高は、経済の実体価値が生み出したものではなく、流動性の高さが生み出したものだという声はよく聞かれる。お金は必ず行き場を探す。金は金を生み、バブルが生じ、何らかのきっかけで風船のようにはじけ飛ぶ。世界的な金余りがストップし流動性が収縮するリスクを常に注意深く見守っておく必要があるだろう。日銀の大幅な利上げがバブル崩壊のきっかけとなるかもしれない。

    【深めるには】世界経済の動きを把握しようと努力しながらニュースを貪欲に摂取する(日経新聞であれEconomist誌であれ)。国際的なマネーフローの感覚を身につけるために、「おかねのこねた」や「いちカイにヤリ」などの良質サイトを定期的に読む。

    >>>文系的株入門part.4へつづく5

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    2 Responses

    1. leChampことはたけ Says:

      いくつか質問。

      1.国内企業の成長性について
      「投資対象として魅力に乏しい」と言いますが、三角合併解禁にともない日本の企業買収に興味を持つ外国企業も増えていると思います。私も、日本企業の中で国際競争力の高いものはけっこうあると思います(業種によるけど)が、どーですか?

      2.中国株について
      何となく中国企業(それはある意味で新興市場の新興企業に似た総体として)のディスクロージャーやコンプライアンスに不信感があります。もちろん偏見によるものが大きいと自覚していますが。財務データの精査はできたとしても、経営者の人柄などは判断しにくいため、かなり博打的な意味合いが濃くなる気がしますが、どーですか?

      3.軽い反論(建設的にとらえてネ!)
      テクニカルな部分だけだと、市場の動きに右往左往して結局損しそうな気がするのですが。株を買うというより会社を買うという感覚で、その会社の価値を徹底的に調べ、安いと思ったら買う。本当にその判断が正しければ、市場の動きで上下はするものの、最終的にその価値まで達すると思いますので、やはり初心者には中長期的な投資の方がいいのではないでしょーか?

    2. Gen Says:

      はたけちゃん、お久しぶり!そしてコメント有り難う。

      1.国内企業の成長性についてのレス
       たしかに国内にも前途洋々な企業はあると思います。たとえばオリンパスは綺麗な上昇トレンドを描いています。言わんとしたのは、「最も投資環境の良いマーケットに資金を振り分けた方が勝率が高い」(参考)ということでした。日本の投資環境は全体として勝率が高くなりそうにない(低成長率が今後も続きそうだ)。たとえば、エマージング諸国と比較して。

       歴史的に、トランジション・エコノミーが高成長率を記録してきた(参考)。追いつけ、追い越せ、とキャッチアップしている間が一番美味しい。その果汁を貪りたいです。マーケット全体のパイが伸びる余地がどれくらい残っているのか。社会的に何かを成し遂げようとする意志が国中にみなぎっているのか。

       BRICsでは物凄いスピードで物事や価値観が変わっている。そういう変化の早い場所はリスクも多いけどチャンスも多い。一方、日本は、踏み上げ太郎さんのコメントを拝借すれば、「緩やかに、美しく朽ちている」という感じなのです。魅力の無いターゲットである上に保護行政でガッチリと守られているから淘汰されずにただ朽ちている企業が多い印象です。

       国際的に通用しうる唯一無地の技術を有している企業を除き、内需系は厳しいですよね。外需(とくにエマージング諸国)の活力を取り入れることができる企業を慎重に見抜く必要はあるかと思います。ただ、相対的に投資環境の良くないマーケットで勝負するよりは、戦略的なアセットアロケーションを重視し、海外メインで戦いたいと思うわけです。「どうやって他の投資家を出し抜いて上手い相場を張るか?ということに腐心するのではなく、特別な知識や相場の技量が無くても上げ潮に乗っかってラッキーできるマーケットを探すべきだと私は考えます」(前リンク元より引用)。

      2.中国株についてのレス
       はげどうw 中国の真に魅力的な新興企業はNY市場に上場する傾向が強いとも言われていますし。ただ、先述したとおり、マーケット全体の投資環境を重視する立場から、わたしは現状中国を主戦場として選んでいるわけです(日本の新興市場は海外から資金すら入ってこない点で二重苦です)。中国企業が出してくる数字はたしかに信用できないです。博打的要素が強いかも知れません。しかし、そもそも、株式投資は多かれ少なかれギャンブル的要素を持っていると(私は)思います。投資家がすべての情報を知り得るわけじゃない。ある企業のビジネスモデルが成功するか否かは運にも強く影響を受ける。人間である限り、正確に将来を予測することはできない。ならば、勝率の高いギャンブルをやりたい。

       もちろん、可能な限り銘柄分散でリスクを下げようとしています。インデックス投資のウエイトを高めてもいます。「BRICsのように比較的新しい市場とか未整備の市場とか機関投資家が進出する上で制約がある場合はインデックスに勝つのはそれほど難しくない気がします。ですから個別銘柄物色をする意味があるのではないでしょうか?(参考)」という声もあるようですが。

      3.ファンダ重視・長期投資の方が初心者向きという議論へのレス
       もちろん、それはそうだと思います。投資スパンが短くなればなるほど、自分の心理的な弱さに振り回されます。しかし、会社の価値だけを売買の判断材料とするのは少々危険かと。決算書からある企業の現時点での価値は読み取れても、将来その価値がどのように変化していくのか予測することはしばしば困難だからです。また、(少額から投資をはじめる場合)資金効率を真剣に考える必要があるからです。

       まず、会社の価値自体が景気循環の中で上下します(「ここまで達する」と想定した会社の価値まで到達しない可能性があります)。景気が頭打ちになった時点で株を購入し長期保有したら、10年以上も含み損を抱えることになる場合も存在します。その意味で、テクニカルとファンダを複合的に捉えて「トレンド」を意志決定の材料とする必要はあるかと思います。景気敏感株と景気非敏感株の、周期の異なったサイクルにも留意しなければなりません。
       
       また、割安に放置されている株には、割安に放置されているなりの(見えない)理由が存在する場合があります(そもそもすべての情報を正確に知るのは不可能)。会社の価値を見抜いたつもりが失敗していた場合への対処法を用意しておくことは重要かと(損切りの重要性)。マーケットの短期的なモメンタムに振り回されているだけなのか、それとも会社の価値自体が毀損し始めているのかを見分けることは時として難しいです。

       個人的な経験から言えば、モメンタム投資は美味しい場合も多いです。マネーゲームに乗り、損切りルールは何があっても守る。トレーリングストップ方式で高値を追いかけていくわけです。

      #3.の点については「会社の価値」に何を含めるのかお互いコンセンサスが取れていないので、議論が行き違っているかもしれませんが…

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