地球温暖化問題の社会的プロスペクト

2007/6/10, 17:14 by Gen

 温暖化をどのようにして抑制するか。二酸化炭素の排出量削減は優等生的なソリューション。いわば、消極的温暖化抑制策。他方で、ちょっと悪ガキ的な、積極的抑制策も考えられているという。詳しくはEconomistのPlan B for global warming?という記事を読んでもらえれば、アメリカ人らしい発想に驚嘆すると思う。

 曰く、”geo-engeneering”という手法を用いて地球をむりやり冷やしてみせるのだとか。たとえば、宇宙のラグランジュ点(重力が釣り合う点)に小型の宇宙船を20mトンくらい浮かべて(パラソルのようにね)、地球に当たる太陽光を1.8%削減しようという計画。NASAは真剣に検討中。あるいは、地球の大気中に粒子をばらまいて、太陽光を拡散させようという作戦(実際に1991年にはピナトゥボ山の火山灰によって地球がcoolingされたことがあったという)。ほかには、海水を空気中にまいて雲を作ってしまう方法。あるいは、砂漠にシートを引いて太陽光を宇宙へと跳ね返してしまう計画。さらにすごいのは、大気中に放出された二酸化炭素を、北極と南極の上にある磁場(オーロラで有名ですね)をコンベアーとして利用し、宇宙まで出してしまおうとする計画(詳しく)。

 さて。このように悪ガキ方法論たちにはドキワクさせられるのだが、やはり一番実効性が高いのは、二酸化炭素排出量削減というスキームだ。やはり優等生は強い。優等生について大変分かり易く端的にまとめてある記事を先週のEconomistで見つけたので、抄訳します。「どの代替エネルギーが有望か」といった技術的側面は別の機会に書くとして、今回は社会的側面について。そういえば先週のEconomistは30ページ近い温暖化問題に関する集中リポートが載っていて、すこし辟易したなあ。以下、背景知識の補足、Economist記事の抄訳、コメントの順に。

angkor watt skye

 まず背景知識をちょっくら補足。30ページ近い特集が組まれるほどになったのは、特にアメリカで、ここ最近、関心が高まってきたから。ヨーロッパではもともと関心が高かったが、アメリカの反応はこれまで薄かった。それが顕著に変わってきたという。(世界のリーダーが重い腰を上げてはじめて、発展途上国への影響も含め、世界的にインパクトある領域となるのだ)

 なぜアメリカは変わってきたのか。1.地球温暖化は実際に生じている現象だという科学的データが疑い得ないほど集まってきたから。2.ハリケーンのカトリーナなど温暖化が身体感覚として可視化される出来事が相次いで生じ、倫理観が鼓舞されたから。3.ゴアやハリウッドのセレブなど、温暖化問題を喧伝するプレーヤーがとみに増えてきたから。宗教指導者たちも相乗りしてきたから。4.カリフォルニア州が独自のリーダーシップを発揮して、排出権取引制度を州内で導入するなど、アメリカ内モデルとして存在感を増してきたから(シュワルツネッガー知事のリーダーシップ+シリコンバレーが大きい。ベンチャーキャピタル含め、ITで一財を成した事業者・技術者たちがこぞって環境技術に群がりはじめた。かつてはITという技術を核に多くの下克上が果たされたが、現在は、環境という価値を軸に事業の再編が行われようとしている。シリコン技術が核となるなど、両者の親和性はかなり高い。ベンチャーキャピタルのグレーな暗躍も)。5.環境対策を「コスト」と捉える企業が減り、「チャンス」と捉える企業が増えてきたから。ITの次のビジネスチャンスは環境技術にこそあり、と捉えられ、バブルが生じてきた。6.上院・下院ともに民主党が乗っ取り、大統領選挙も近づいているから。7.タカ派的な安全保障上の理由(中東への原油依存を断ち切る)から、代替エネルギーへの注目が集まっているから。8.エタノールの流行で穀物とくにコーンの価格が上昇し、全米の農家が重要な利害関心プレイヤーとなってきたから。

[下線部は訳者が個人的に重要と感じたところ]

The final cut

 最近のビジネスは地球温暖化と戦うための熱気に満ちている。良いことだ、だがそこにはリスクもある。

 ひとつ目のリスクは、温暖化問題が流行している点だ。地球温暖化はファッショナブルなのだ。もちろんファッションはつまらないものを打破できるという美徳をもっているが、しかしそれは定義上、移り気なものだ。ハリウッドスターたちはおそらくいつも乗り回しているプリウスに飽きるだろう。重役たちは「green」について熱く語るのが億劫になり、人々の想像を掻き立てる別のCSR(企業の社会的責任:Coporate Social Responsibility)に移ってしまうかも知れない。

 ふたつ目のリスクは、原油価格のボラティリティが高い(価格が大きく変動する)ことだ。原油価格が上昇すればするほど、排出量を削減する見込みは高まる。

 三つ目のリスクは、政治だ。政府が企業に与えているインセンティブが上昇しない限り、クリーンエネルギーバブルは弾けてしまうだろう。

 消費者は、どうやら、企業が環境に優しい行動を取るためのインセンティブを与えそうにない。彼らは倫理的に良い商品を買って暖かな気持ちになるのを好むかも知れない。しかし、環境のためにより多くのお金を消費者が払う兆しはほとんどないのだ。British Airwaysがフライトで排出する二酸化炭素を相殺するため[の行動を取ろうと]乗客にリーズナブルな負担を求めたが1、それに応じたものは1%にも満たなかった。それはおそらく、人々が自己中心的だからなのだろう。あるいは、人々は合理的だ――自分一人の経済的な選択なんて地球の将来にほとんど違いを与えないと知っている――からなのだろう。((訳者註:いわゆる「社会的ジレンマ」))

 しかし、有権者としては、人々は地球の将来に影響を与えることができる。地球温暖化は集団レベルの問題であり、それは集団レベルにおいてのみうまく扱うことができるのだ。有権者は、企業が環境に優しい行動を取るようルールを変える政府に投票することによって、地球の将来に貢献できるのだ。

 二酸化炭素排出量を抑制するよう、政府が企業を説得できる方法が3つある:1.助成金、2.規制(ルール)、そして3.carbon price(二酸化炭素排出に課金すること)だ。企業や政府は助成金が大好きだ。助成金は人々の税金から支払われるが、人々は得てしてそのことに気づかないからだ。マーケットに参入するにはキックスタートが必要だから、ある特定のテクノロジーに助成金を与える必要があると主張するエコノミストもいる。もちろんこれは大きな、リスキーなプロジェクトの場合には真実かも知れない。しかし、助成金は非効率を生む傾向がある。なぜなら、助成金方式では、政府がテクノロジーを選別必要が生じるからだ。そして一度はじまってしまうと、なかなか廃止するのが難しいからだ。

 企業を説得する二つめ方法は製品とプロセスに基準を設定することだ(ビルのエネルギー効率基準を決めたり、白熱灯を禁止したり)。この規制方式は通常は悪いやり方だ。なぜなら政府が民間にどのように資源を配置すべきかを命令しなければならないからだ。民間は得てして政府よりもその点において優れているのだ。もちろん、ビルのエネルギー効率の悪さを見ればわかるように、マーケットはこの点についてときに無能だから、この方法に一定の意義はあるかも知れないけれども。

 しかし、排出量を削減するには、carbon priceがおそらくベストな方法だ。これには、課税方式と、ヨーロッパが既に採用している排出権取引制度 ((cap-and-trade system))とが存在する。

 課税方式がおそらくベターな選択肢だ。排出権取引制度では価格が変動するが、課税方式は一定の価格を設定するので、排出量が予想しやすい。ヨーロッパのcarbon priceのボラティリティは高く(30ユーロまで上昇し0ユーロ付近まで下落したことがある)、それがクリーンエネルギーへの投資を妨げる一因になっていると指摘されている。しかし、課税方式の見通しはあまり良くない。ビジネス界――特にアメリカは――「税」という単語にアレルギー反応を示すからだ。そして、はじめの段階で各企業に一定の排出許可量が割り当てられる排出権取引制度の方が、コストを抑えたい企業にとっては魅力的に映るからだ。

 いずれの方法を通じてcarbon priceが設定されるにせよ、大きな疑問がまだ残っている。世界経済を萎縮させることなく、地球温暖化に明確な違いを与えることができるほどの高いレベルにcarbon priceを保つことができるのか?

 おそらく可能だ。二酸化炭素排出量を一定に保つためのcarbon priceは、排出量1トンあたり、2020年から2030年までに20ドルから50ドルであるべきだといわれている。アメリカでは、carbon priceが1トンあたり20ドルの場合、原油価格を1ガロン当たり6%、エネルギー価格を14%上昇させ、50ドルの場合はそれぞれ15%と35%押し上げると見積もられている。

 20ドルの場合、経済成長に与える影響はたいしたことがない。50ドルの場合でも何とかやっていける。2050年まで平均してGDP成長率が0.1%減少するだけだと考えられているからだ。

 もっとも、この価格は、世界全体の国々がcarbon priceを採用した場合を想定している。大胆な予想かもしれない。発展途上国を説得するのはおそらく極めて難しいだろう。

 とにかく、すべての先進国が第一歩を踏み出さなければ、発展途上国を説得することができない。効果的なcarbon priceを設定し、途上国に「経済成長をダメにすることなく参加できますよ」とアピールする必要がある。これが地球温暖化の完全な解決策とはならないだろうが、おそらく、第一歩にはなるだろう。
—–

<コメント>

 「白熱灯は電気代が高いから蛍光灯にしなさい」という発言を聞いたことがある人は多いかもしれない。世界の白熱灯をすべて蛍光灯に置き換えるだけで、かなりの電力削減効果があるという(蛍光灯の電力消費量は白熱灯の1/5)。白熱灯を法律で禁止せよ!とホットトピックになっているらしい。EUとオーストラリアは法案を練っているそうな。

 いや、でも、個人的に、もしそんな法案が日本で登場したら全力で反対するなぁ。白熱灯の暖かな光は何物にも代え難い。空間は光で満たされるんですよ。チカチカ蛍光灯の光しか満たすものがなかったら、もう…。深夜静かにジャズを聴きながら酒を飲み、グラスに輝く光はオフィスのごとく…。

 環境効率を追求していくと、当然のことながら、(それまで積み上げられてきた/得てして贅沢な)文化との衝突が起きると思うんです。自分の生活の大切な一部になっている文化を譲り渡せといわれたとき、あなたならどうしますか?

 本文中にあった「温暖化問題はcollectiveなものだ、だからcollectiveなやり方でmanageしていくしかない」というのはとても鋭い指摘だと感じた。自分一人が、自分自身の決断で、孤独に、環境問題のコストを引き受けるのは辛い。「何か社会的善にとってに必要なコストが見えにくい(集団的な)形で配分されようとしているときは、せめて積極的に引き受けろ!」といったところか。同じコストでも、配分方法によって精神的負担がまったく異なることは良くあるのだ。

 あとは、報酬(助成金)型はダメ、規制(基準値)型はダメ、というのも納得。重いtaxをかければ良いのだ。可能な限り政府の判断をマーケットに委ねることはかなりの確率で正しい。その意味で税金システムはとても優れているな。

世界のエネルギー供給の状況。意外と代替エネルギーが多いなぁ。


  1. 訳注:BAの「カーボンオフセット制度」は、環境問題に取り組む団体“Climate Care”の活動にBAを利用する人たちが寄付を行うことで、航空機の運航にともなうCO2排出量を相殺しようというもの。簡単に言うと、航空機のCO2 排出量削減に向けた対策費の一部を、航空機の搭乗者たちが自ら負担する仕組みです。Climate Careはこれまで、南アフリカ共和国への省エネ照明器具5万個の配布や、インドで再生可能エネルギーである練炭を燃料とするストーブの利用促進プロジェクトなどを進めてきました。たとえばロンドンーマドリード間で5ポンド [back]
Tags 国際関係, 科学/認知/進化/環境/身体 | | 4,561 Views | add to hatena hatena.comment 1 users add to del.icio.us 0 user add to livedoor.clip 0 user |  http://blog.genxx.com/wp-trackback.php?p=190
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