ブレア首相の独白(Economist-”What I’ve learned”)

2007/6/10, 12:07 by Gen

 お久しぶりです、お元気ですか。早速ですが、先週のEconomist誌に思わず膝を叩いてしまった記事がいくつかあったので、順に紹介していこうと思います。(先週以前のものでも面白い記事を順次紹介していきます)

 イギリスのブレア首相は来る6月27日に退任予定ですが、彼がEconomist誌に寄せたエッセイ”What I’ve learned”の言葉には重みと力がありました。ブレア首相はもともと好きな政治家でもあったので、彼に敬意を表して、良い意味でも悪い意味でも引っ掛かった部分をところどころ抜粋しながら、意訳で紹介していこうと思います。(リンク元は無料で読めるようです。全文・正確な文・具体的な歴史に興味のある方はリンク元をどうぞ)

 #結果的に彼の評判は(イギリス国民にとって)どん底に落ちたまま退任を迎えることになりましたが、彼が成し遂げた業績は多く、優秀な政治家だったなぁというのが個人的な感想です。シンプルな(時にシンプルすぎる)ロジックで感情に訴えかけるブッシュとは対極的に、自らの考えを言語的に緻密に位置づける能力に秀でていたという印象が。たとえこの文章が彼のポジショントークだとしても、「開きつづけること」というキーワードが似合う彼の最後にふさわしいものなんじゃないかな。

[下線部は訳者が個人的に共感したところ]

—–
 今日のリーダーは、国際的に考え、行動することを義務づけられている。「外交」と「内政」の境界線は曖昧になりはじめている。たとえば、地球温暖化は発展途上国の政治にとって大きな問題だ。だがそれは国際的な行動を取じてのみ解決できる。今日パキスタンで起きた事件はイギリス国内で起きる出来事に影響を与える。一国の内政だけでは、大量の移民に部分的にしか対処できない。経済はグローバリゼーションの力によって形作られている。

 マスメディアとマスコミュニケーションは、世界中に、素早く、力強いイメージを伝える。だから、(国際的な)闘争は、伝統的な手段(たとえば戦争や外交)を通じてだけではなく、プロパガンダ・考え(ideas)・価値を通じてもなされているのだ。

 以上の分析に基づき、わたしの回想は、以下の通りだ。

1.観客になるな、プレーヤーであれ

 わたしたちは、国際的なコミュニティーをまとめるため、可能な限り幅広いアジェンダを構築しようとしてきた。そしてそのアジェンダは、明らかに、価値に基づいた(value-based)ものであった。国際的な政策は単に利害のゲームであるべきではない。それは、わたしたちが支持し、そして守るべく戦う信念(beliefs)をめぐるゲームであるべき
なのだ。

 だからこそ、わたしたちは、ジェノサイドや抑圧やひどい不正義を防ぐため、他国に――もし必要ならば軍事的に――干渉する準備をしておくべきなのだ。イギリスは、過去10年の間、4回の干渉を行った。コソボ、シエラレオネ、アフガニスタン、そしてイラクだ。どの場合でも、残酷な政府は取り除かれたのだ。ダルフールについて考えよう。わたしたちが状況を変えるために立ち上がらないとしよう。暴力はスーダンの国境で止まると本当に信ずることができるのか?

 サダム・フセインやタリバン――それらは独裁的だが一定の秩序はなしている政権であった――を取り除くことによって、イラクやアフガンの苦境はさらに悪化し、テロリズムが育つ土壌が生じたと言われている。この考えは魅力的だ、だがしかし、とても危険な議論の仕方だ。わたしたちが信じる価値に対して戦う意志が、敵の戦いへの意志によって決められてしまうことを意味するからだ。

 決定的に重要な点は次の通りだ。わたしたち、イギリスは、世界中の問題に対して深く巻き込まれていくべきだ。なぜなら、最終的にそれらの問題は、わたしたちの未来に影響を及ぼすからだ。そしてアジェンダは、自由という価値、民主主義、他者への責任、そして正義と公正について設定されるべきなのだ。

2.アメリカとの協力関係は死活的に重要である

 右翼左翼を問わず、たびたびあらわれる孤立主義について憂慮している。中国やインドと新しい戦略的関係を築いていくべきだという声がある。たしかにそうだ。しかし、わたしたちが新しい勢力に対してより影響力を発揮するには、私たちの背後にある強力な(アメリカとの)同盟関係が必要なのだ。

 たしかにアメリカとイギリスは違う。だが、一点を明確にしておくべきだ。ヨーロッパとアメリカは同じ価値を共有しているのだ。だからこそ協力し合うべきなのだ。将来、中国とインドの人口はEUの3倍にもなるのだ。

3.グローバルなテロリズムについて明確にしておこう

 タリバンを政権の座から引きずり下ろすのは比較的簡単だ。だが、彼らのイデオロギーまで取り除くのはとても困難だ。

4.わたしたちは我々の価値のために立ち上がらねばならない

 単に軍事的・セキュリティー的な手段によってテロに打ち勝つことはできないだろう。テロリストが人を集めるとき、彼らは人々の感情に訴えかけることに固執する。それに対抗するには、人々に対して、より良く、より深く、より明瞭な訴えかけをしていかなくてはならない。

 しかしそうするためには、わたしたち自身が、我々の価値のために立ち上がり、それらの価値を誇りに思い、明確に支持することが必要なのだ。「民主主義」や「自由」といった価値を、(異質な他者に対して押しつけようとしている)「西欧的な」概念だと考えるのはあまりに馬鹿げている。政府は異質な他者かもしれない。しかし、一般の人々はそうではないのだ。誰が民主主義を廃止するために投票するか?あるいは言論の自由を侵害する秘密警察を好むか?[訳注:ロシアのことと思われ]

 それらの価値は普遍的(universal)なものなのだ。わたしたちは自信を持って過激主義者たちのイデオロギーを攻撃しなければならない――彼らの国家観を、人類の平和への拒否を、女性に対する完全なる逆行的な考えを。テロリズムの野蛮なやり口を糾弾するだけでなく、何よりも、彼らの西欧への嫌悪感を攻撃すべきだ。イスラム人をテロによって殺しているのは、実際には他のイスラム人なのだ。そしてその行いはコーランの教えに完全に反しているのだ。

 わたしがいつも感じてきたことがある。左翼・右翼といった通常の政治のあり方はテロリズムを解決するにあたって障害となるのだ。右翼は正しい、自由という価値を支持し、その価値を守るため、断固として軍事的にも戦う点において。左翼は正しい、正義という価値は必要なものなのだから。困ったものだ。

 正義という価値へのコミットメントに動機づけられていると見なされない限り、テロリズムの背後にある思想を攻撃しても機能しない。だからこそ、イスラエルーパレスチナ問題の解決を試みることは極めて重要なのだ。わたしたちは世界観の戦いに直面しているのだ。わたしたち自身の世界観が必要だ。わかりやすいだけでなく、我々が信ずる価値に適切に基づいた世界観が。

5.それは将来のアジェンダでもある

 そのアジェンダは重要だ。なぜなら、それを通じて、わたしたちは世界における共通の価値システムを形成することができるからだ。まもなく、新しい勢力と新しい利害関心が世界が取るべき方向性に大きな影響力を与えはじめる世界においてだ。

6.他方で、国内のことについて

 この記事は世界中の読者に向けて書いたので、主に国際的な政策にフォーカスしている。だが、わたしが国内の政治から学んだいくつかの興味深い教訓があるので、以下に列挙してみよう。

■ “open vs closed”は今日の政治において”left vs right”よりも重要だ

 世界に対して開かれる用意ができているとき、国はベストを尽くせる。これは経済的に開かれていることを指す。保護主義を避けること、外国からの投資を歓迎すること、柔軟な労働市場を運営すること。また、これは(コントロールされた)移民に対して自らを開くことも意味している。たしかにすべての国で議論がわき起こる政策領域だ。だが、わたしは疑いなく言えるのだ。(ターゲット化された)移民の入国を奨励することで、ロンドンはより力強く、より成功してきたということを。孤立主義と保護主義が、左翼・右翼を問わず跋扈している。それらは心地良いが、ごく短い期間通用するに過ぎない。

■国家の役割が変わりつつある

 今日の国家は、市民とのパートナーシップ――相互の権利と責任――を可能にし、またそれに基づくものでなければならない。古い中央集権的な分配は打ち壊される必要がある。公共サービスのシステムは適切なインセンティブと報酬を必要としている。結果によって報酬が支払われるシステム、競争を作り出すことが大事だ。[訳注:トップダウンを止め、システムの各ユニットにおけるフィードバック構造が大事だということ。必ずしも民営化を意味するわけではない]

■責任が共有されていなければ福祉システムは機能しない

 ”the state to provide help, the citizens to use that help to help themselves”。年金の基礎支給額は支給するが、その上で[豊かな老後を送りたいならば]自分で金を貯めろ。

■社会的排除(social exclusion)には特別の注意を払うべし

 1979年から1999年にかけて、上位20%の富裕層の収入(2.5%)は、下位20%の貧困層の収入(0.8%)よりも高い成長率を記録した。97年以降、これは逆転した(富裕層2%vs貧困層2.2%)。だがしかし、このデータからは社会的に排除された層が漏れている。上げ潮は彼らの船まで導くことはなかったのだ。social exclusionは西洋諸国共通の問題となっている。

■最後に、今後、政党はラディカルに形を変える必要があるだろう

 巷では政党は死んだと言う神話が囁かれているが、それは正しくない。人々の政治に対する関心はかつて無いほど高まっている。最近のフランスの大統領選挙が示したように。人々に本当の選挙を与えよ、さすれば彼らは投票にやってくるだろう。政党は街に出て行き人々の参加を求める必要がある。待っているだけではダメだ。だから、政党のメンバーシップはより緩くあるべきだ。政策立案はより幅広く、より代表性のあるものであるべきだ。インターネットと相互コミュニケーションは標準となるべきだ。

 開きつづけよ。

Tags 国際関係 | | 2,437 Views | add to hatena hatena.comment 1 users add to del.icio.us 0 user add to livedoor.clip 0 user |  http://blog.genxx.com/wp-trackback.php?p=189
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