人間の進化の全期間を一日に換算すると‥

2006/12/13, 21:16 by Gen

 人類は、地球上にほぼ50万年にわたって生存してきた。農耕がはじまったのは約12000年前、文明社会が生まれたのはおよそ6000年前だ。その間に人間は進化したのだろうか。 人間の社会は大きく変化してきたから/情報が過剰に飛び交う社会になったから/文化の内容が大きく変化してきたからetc…「現代の人間はかつての人間とは異なる」と言われる。だが、誤解しちゃいけない。その間に人間が遺伝的あるいは生物学的に進化したと考えるのは全くの誤解だ。人間は遺伝的あるいは生物学的にほとんど変化していない。言い換えれば、現代社会に生きる人間の生物学的基本メカニズムは、サバンナでライオンから逃げ回っていた人間のそれとほとんど同じである。なぜそう言えるのか。それは、ヒト進化の時間的スケール全体から見れば、文明環境下で生じた進化は無視できる程度といえるからだ(Buss,2004)。

 誰かにこのことを説明した場合、頭ではわかってもらえても、なかなか体で感じてもらえない。そんな折、巧みな比喩を見つけた。人類がこれまで過ごした全期間を一日に換算する比喩である。曰く、農耕が始まったのは午後11:56分、文明が始まったのは午後11:57、そしてさらに驚くべきことに、近現代社会の発達が始まったのは午後11:59分30秒というのだ。1日の最後の30秒の間に、恐ろしいほど社会が変化した。昼ドラで、エンディングロールの間に、殺されたはずの主人公が墓からむくむくと起き上がってくるぐらいショッキングなラスト30秒である。

 では、人間が生物学的にほとんど変化しなかったとすれば、何が変化したのか。第1に、当たり前のことだが、社会や文化が変化した。第2に、社会や文化の変化に引っ張られて、人間が変化した。第3に、人間の変化に対応して、(今度は逆に)社会や文化が変化した。以下、人類絶滅まで無限ループ。さて、この場合の「人間の変化」とは、前述した通り、遺伝的・生物学的なものではほぼない。だが確実に、人間は変化した。ではいったいそれはどのような変化なのか。進化心理学者のPinker(1994)はこう述べる。

 「人が色々な感情を見せたり、口に出したり、行動で表したりする頻度は、文化によって様々である。しかし、その文化に属する人たちが何を感じているかはまた別の話である」。「刺激を人々がどのようにカテゴリー化しているかをたずねれば、そのカテゴリーから引き出される感情はなじみのあるものに感じられるだろう。私たちにとっては、牛の尿は汚いもの、牛の乳腺の分泌物は栄養物である。別の文化ではこのカテゴリーが逆であるかもしれないが、汚いものに対する嫌悪感はどちらも変わらない」。

 このように、「汚いものに対する嫌悪感」(生物学的・進化的に共通の心的基盤)は普遍的な(変化していない)のだが、何を汚いと感じるかは社会的・文化的に規定され変化してきた。さらに、社会的・文化的に「汚い」とされる対象がどのような実際的な意味(アクチュアリティー)を持つかは、個人の物語によって異なるだろう。個人の物語は社会的・文化的な制度や集合的表象から大きく影響を受けているが、同時にまた、社会的・文化的な制度や表象を構築する存在でもある。

 つまり、単純化した例で言えば、喜怒哀楽という人間の基本的感情要素はほぼ変化していないのだが、何に喜びや怒りや哀しみや楽しさを感じるのかは変化してきたのだ。そして何に喜怒哀楽を感じるかが変化すれば、当然今度は社会や文化が変化する。以下、人類絶滅まで無限ループ。<遺伝vs環境>という単純な図式はもはや安らぎをもたらしてはくれない。その意味で、「進化的には云々だから何々は正しい」みたいな物言いは疑った方が良い。またその意味で、「現実は社会的に構築される」と言えるのかもしれない。

 もちろん、遺伝的・進化的な要素と、それらの発現形態とを厳密に切り分けるのはとても難しい。自然科学的にも、概念操作的にも困難だ。共進化という話も入り込んできて、ますます混迷の度を深める。現時点でわかりやすく言えるのは二つのことだけである。人間は遺伝的に変わらない、だが可能性はオープンである、と。

Tags 科学/認知/進化/環境/身体 | | 3,515 Views | add to hatena hatena.comment 2 users add to del.icio.us 0 user add to livedoor.clip 0 user |  http://blog.genxx.com/wp-trackback.php?p=157
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